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Patch8番勝負其の五「逆さの鳥」観劇レポート

 ■  Patch8番勝負 其の伍「逆さの鳥」 観劇レポート
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「大阪から必死のパッチで元気を発信したい!」と一昨年に結成された、地元密着型劇団Patch。平均年齢20代前半の男性ばかりの俳優たちが演劇を柱に躍進中だ。「この芝居を観ないと一生後悔する」。本番直前のブログでメンバーの1人がそうつぶやいた意欲作、Patch8番勝負・其の五『逆さの鳥』を観た。
 
物語は主人公・越智(松井勇歩)の絶望的な溜め息から始まる。寂れた海辺の田舎町。父親を殺すために帰省した越智と彼を巡る人々の物語。地元に暮らす同級生の河野(中山義紘)と浅尾(三好大貴)、町役場の職員・藤岡(竹下健人)、そして祖母を亡くした町民・松浦(岩崎真吾)。静かな川面に波紋が広がるように、越智の存在が彼らの心を波立たせていく……。作・演出は中毒性のある作風で知られる伏兵コード主宰の稲田真理。稲田はあらかじめ役者の“隠したい素顔”を聞き出し、少なからず台本に反映させたという。目指したのは「他者から見た自分と、自分から見た自分は違う」という視点。こうして役者たちは自らの暗部と向き合い、その姿を観客の前に晒すハメになったのだ。
 
田舎を出るときも、戻ってきた今も越智の手には包丁が握られていた。父を殺すことが生きがいで、そのことに生かされている矛盾。自分は凶器=狂気そのものであると知った越智は、肯定を求めるように包丁を同級生・河野の前に差し出し、「俺に触ってくれ」と懇願する。激しく抵抗する河野だったが、やがて越智と入れ違いに現れた浅尾に対し「俺に触って欲しい」と自らの股間を突き出すのだった。海からの乾いた秋風が窓を揺らすなか、突如臭い立つ生の気配。息を飲む観客。張り詰める空気。薄闇の中で自分の鼓動だけが速度を増していくような感覚。作家が盛った毒を観客も一緒に食らった瞬間だ。自分とは何者か。故郷とは、家族とは何なのか。パンドラの箱をつつかれたような、胸がざわつく芝居だった。
 
越智を演じた松井は声が良い。ややハスキーな声色は甘く消え入りそうで、整った容姿も危うい均衡を生きる主人公にぴったり。中山と三好は対照的な同級生を演じた。中山は理屈抜きの衝動をリアルに体現し、終始理詰めの三好は、堰を切ったように本音を吐露する終盤で見せ場を作った。一方、帰省の理由も知らずに越智と言葉を交わす役場の職員と町民役に竹下と岩崎。竹下は善人ゆえの愚直さが悪にもなりえる役どころ。不器用なまでの正直さが切ない。岩崎はどこか達観したような存在感が、作品全体に幻想的な奥行きをもたらしていた。

 
200人も入ればギュウギュウの小空間。ここで、毎月新たな劇作家の新作を上演する「Patch8番勝負」シリーズも、残すところあと3作品。来月はどこまで表現のふり幅を広げられるのか。同世代のファンらは役者の息遣いが感じられる親密さにドギマギしつつ演劇の面白さに開眼し、小劇場に慣れ親しんだファンらは、身を縮めながら観る不自由さにかつての興奮と懐かしさがよみがえるはずだ。
 
(取材・文/石橋法子)
 






☆次回公演
Patch8番勝負其の六「沈黙のZOO」
作・演出:大熊隆太郎(壱劇屋)
日時:10月28日(火)19:30、29日(水)15:00/19:00
チケット:2,500円(税込・全席指定)
会場:森ノ宮ピロティホール サブホール
ゲスト:西分綾香(壱劇屋)・竹村晋太朗(壱劇屋)

【プレイガイド】
チケットぴあ TEL:0570-02-9999(Pコード:439-328)
ローソンチケット TEL:0570-084-005(Lコード:56790)
CNプレイガイド TEL:0570-08-9999
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